「一点の欠点もない傑作だと思う本、誰彼かまわず勧めたくてたまらない一冊は?」という問いかけに、古典から最近のSFまでが次々と挙がった。作品名を出すだけでなく、どの場面で参ったのか、読み終わったあと自分がどうなったのかまで書き込まれていて、未読の本まで読みたくなってくる。
元スレッド:r/AskRedditより
海外の反応
1. 名無しのReddit住民
ル=グウィンの『所有せざる人々』。所有という概念のない星から、豊かで不平等な星へ渡った物理学者の話なんだけど、どっちの社会も理想郷として描かないのが恐ろしい。読み終わったあと、自分はどっちの星の住人なんだろうとしばらく考え込んでしまった。
※『所有せざる人々』は1974年のSF小説。無政府主義的な社会を築いた衛星と、資本主義的な母星とを行き来する物理学者を描く。ヒューゴー賞・ネビュラ賞をどちらも受賞している。
2. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
同じ人の『ゲド戦記』しか読んでなかったから、ここまで政治と経済を正面から書く作家だとは思ってなかった。しかもどっちの体制にも肩入れしないのがずるい。ファンタジー作家という括りに全然収まってない人だよ。
※『ゲド戦記』は1968年に始まったファンタジーシリーズ。日本ではスタジオジブリの映画版で名前を知られている。同じ作者の代表作。
3. 名無しのReddit住民
ビル・ブライソンの『人類が知っていることすべての短い歴史』。自分がほとんど読まないノンフィクションの中で、これだけは別格だった。宇宙の始まりから地球の成り立ち、生命の起源、そして物理や化学や生物学を人類がどうやって理解してきたかまでが、専門用語なしで全部つながる。巻末の参考文献の量を見ると、よくこれを一冊にまとめたなと呆れる。万人受けはしないかもしれないけど、地球上の全員が読んだら世界は少しマシになると本気で思ってる。
※2003年刊。旅行記で知られる著者が、科学の門外漢の立場から素朴な疑問を各分野の専門家にぶつけて回った科学ノンフィクション。
4. 名無しのReddit住民(>>3への返信)
高校の理科がずっと苦手だったのに、これを読んでから急に面白くなった。教科書は答えだけ並べてるけど、この本は誰がどう間違えてどう気づいたかの順番で書いてあるから頭に入ってくる。理科の先生は全員これを配ってほしい。
5. 名無しのReddit住民
『モンテ・クリスト伯』一択。無実の罪で14年ぶち込まれた男が、別人になって戻ってきて仕掛けを一つずつ回収していく。復讐が完全に決まった瞬間より、そのあとに主人公が虚しさに気づく場面のほうが刺さった。痛快劇のまま終わらせないのがすごい。
※1844〜46年にフランスの新聞で連載された長編。作者はアレクサンドル・デュマ。日本では『巌窟王』の題でも親しまれてきた。
6. 名無しのReddit住民(>>5への返信)
面白いのは認めるけど文庫で何冊にもなるやつだから、途中で登場人物の名前が分からなくなって二回挫折してる。三回目でやっと抜けた。人に勧めるときは、長さだけは先に言ってあげてほしい。
7. 名無しのReddit住民
『百年の孤独』。作者の頭の中にあった光景が、一ページも妥協せずそのまま紙に出てきた感じがする。氷を初めて見る場面から始まって、村がだんだん現実から浮き上がっていく。読み終わった直後は、しばらく他の小説がぜんぶ薄味に感じた。
※1967年、ガブリエル・ガルシア=マルケスによるコロンビアの小説。架空の村を舞台に一族の百年を描く。ノーベル文学賞作家の代表作で、日本では2024年に文庫化されて話題になった。
8. 名無しのReddit住民(>>7への返信)
これ、似た名前の人が何世代も出てくるやつだよね。家系図をスマホで開きっぱなしにして読んだけど、結局誰が誰だか分からなくなって本棚に戻した。名作なのは疑ってない。単に自分の集中力が足りなかった。
9. 名無しのReddit住民
『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』。巣を追われた群れが新しい土地を探す話なんだけど、体の小さい連中が絶望的な場面で腹をくくるときの胸の熱さが、『指輪物語』でホビットたちが立ち上がるところとまったく同じ。ウサギの言葉まで作り込んであって、終盤の決定的な一言は辞書なしでも意味が分かる。あれは検索しないで読んでほしい。
※『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』は1972年のイギリスの小説。児童書の体裁だが、独裁と抵抗を描いた寓話として大人にも読み継がれている。『指輪物語』はJ・R・R・トールキンの1954年の大河ファンタジーで、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作。
10. 名無しのReddit住民
ジョゼフ・ヘラーの『キャッチ=22』。笑えるのに悲しくて、最後には苦い。この三つが同じ文章の中で同時に成立してる小説を他に知らない。好きすぎて続編も映像化も一切見てない。あの読後感に何かを足されたくないんだよ。
※1961年刊。第二次大戦下の米軍航空隊を舞台にした不条理小説。「狂っていれば任務を外してもらえるが、外してほしいと願える時点で正気」という規則が題名の由来で、英語では出口のない矛盾を指す言葉として定着した。
11. 名無しのReddit住民(>>10への返信)
自分は前半でギブアップした側。同じようなやりとりがぐるぐる回るのは狙ってやってるんだと頭では分かるんだけど、二百ページくらいで疲れ切ってしまった。合う合わないがはっきり出る本だと思う。
12. 名無しのReddit住民
メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』。怪物が化け物として出てくるんじゃなくて、言葉を覚えて本を読んで、それでも誰にも受け入れてもらえないと理解していく過程が全部書いてある。二十歳そこそこの女性が書き上げたと知ると、余計に頭が下がる。
※1818年刊。人造の生命を創り出した科学者と、その被造物の対話を描く。SF小説の原点とも言われる。フランケンシュタインは怪物ではなく科学者の名前。
13. 名無しのReddit住民
『ホビットの冒険』。映画も悪くはないけど、あれを先に見ると竜や山を自分の頭で組み立てる楽しみが丸ごと消える。文章だけで地図が浮かんでくるあの感覚こそがトールキンの本領なんだから、順番だけは守ってほしい。
※1937年刊。『指輪物語』の前日譚にあたる冒険物語。作者は言語学者で、作中の地名や言語を一から作り込んだことで知られる。
14. 名無しのReddit住民(>>13への返信)
正直に告白すると、初読のときドワーフの歌のところを全部飛ばした。大人になって読み返したら、あそこで一族が何を失ったのかを歌ってると分かって、当時の自分を殴りたくなった。
15. 名無しのReddit住民
コーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』。焚き火を囲む一行を描写しただけの数行が、そのまま旧約聖書みたいな重さになる。話の中身はひたすら救いがないのに、文章が美しすぎて手が止まらなくなる。
※1985年刊。19世紀のアメリカ・メキシコ国境地帯をさまよう集団を描いた西部小説。会話にカギカッコを使わない独特の文体で知られる。同じ作者の『ザ・ロード』は映画化もされている。
16. 名無しのReddit住民(>>15への返信)
これは本当に人を選ぶ。カギカッコがないから誰が喋ってるのか分からなくなるし、暴力の描写も容赦ない。三十ページで閉じてそのまま本棚に戻した。文章がすごいのは一行目で分かったんだけどね。
17. 名無しのReddit住民
『ディスクワールド』シリーズ。ただし三作目から入ること。一作目と二作目はまだ助走で、作者が本気を出すのは三冊目から。ここを間違えて一巻だけで見切る人が多すぎて、毎回もったいないと思ってる。
※1983年から40作以上書かれたイギリスのコミック・ファンタジー。巨大な亀の背に乗った円盤状の世界が舞台で、警察物や魔女物などシリーズ内で系統が分かれている。作者はテリー・プラチェット。
18. 名無しのReddit住民
ダン・シモンズの『ハイペリオン』。巡礼に出た七人が順番に自分の身の上を語っていくんだけど、一話ごとにジャンルも文体も変わる。読みながらノートを一冊まるごと使って、設定や気になった単語を書き留めた。あんな読み方をしたのは後にも先にもこれだけ。
※1989年のSF。謎の遺跡がある辺境の星へ向かう七人の巡礼者が、道中でそれぞれの物語を語る構成。ヒューゴー賞受賞作。
19. 名無しのReddit住民
『銀河ヒッチハイク・ガイド』と、あとウッドハウスの『ジーヴス』もの全部。笑わせにきてる本で完璧と言えるのはこの二つくらいだと思ってる。前者は世界が滅ぶ話なのに一行も深刻にならないし、後者はどうでもいい騒動を最上級の英語で書いてるのが最高に馬鹿馬鹿しい。
※『銀河ヒッチハイク・ガイド』は1979年のSFコメディで、地球がいきなり取り壊されるところから始まる。『ジーヴス』は20世紀前半のイギリスのユーモア小説シリーズ。有能すぎる従僕ジーヴスと、能天気な主人バーティの掛け合いが読みどころ。
20. 名無しのReddit住民
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。ここ数年でいちばんハマった本。読み終わってすぐ最初に戻るのを四回やって、オーディオブックも何度も聴いた。朗読の出来も含めて自分の中では歴代一位で、映画化の話を聞いたときは思わず声が出た。
※2021年のSF。記憶を失った男が宇宙船で目覚めるところから始まる。作者アンディ・ウィアーは『火星の人』(映画『オデッセイ』の原作)で知られる。
21. 名無しのReddit住民(>>20への返信)
同じ作者の『火星の人』が好きなら間違いなく刺さる。理屈で問題を一個ずつ潰していく気持ちよさは共通してるんだけど、こっちは相棒がいるぶん読後感があたたかい。朗読版は特に、ある登場人物の声の当て方が発明だと思う。
22. 名無しのReddit住民
アシモフの『ファウンデーション』。銀河帝国が崩れるのを数学で予測して、そのあと来る暗黒時代をどう短くするかという話。派手な戦闘はほとんどないのに、世代をまたいで計画が効いてくるところで痺れる。SFなのに歴史書を読んでる気分になる。
※1951年から続くシリーズ。旧邦題は『銀河帝国の興亡』。人類の集団行動を統計的に予測する「心理歴史学」という設定が、後のSFに大きな影響を与えた。
23. 名無しのReddit住民(>>22への返信)
アシモフでいくならハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』も並べたい。月の流刑地が地球から独立しようとする話で、作中で何度も出てくる合言葉が「タダ飯なんてものはない」。理屈っぽさとユーモアの配合がちょうどいいんだ。
※『月は無慈悲な夜の女王』は1966年のSF。合言葉として繰り返される TANSTAAFL(There ain’t no such thing as a free lunch)は、英語圏で慣用句のように使われている。
24. 名無しのReddit住民
ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』。二百年前の小説なのに、第一印象で相手を決めつけて後で恥をかく構図が今とまるで同じ。会話だけで人物の性格が全部分かるように書けている点で、これを超える恋愛小説をまだ読んでない。
※1813年刊。イギリスの田舎に暮らす姉妹と、資産家ダーシーとの行き違いを描く。数えきれないほど映像化されていて、恋愛小説の型そのものを作った一冊とされる。
25. 名無しのReddit住民(>>24への返信)
学校の課題で読まされて完全に嫌いになった口。感想文の締め切りに追われながら読む古典ほど不幸なものはない。十年後に自分の意思で読み直したら普通に面白くて、当時の授業のほうに恨みが湧いた。
26. 名無しのReddit住民
エリ・ヴィーゼルの『夜』。文章は驚くほど平易で本自体も薄いのに、内容だけが四十年たっても頭から出ていかない。同じ意味で自分に残ってるのはトニ・モリスンの『ビラヴド』で、こっちは読んでいる間ずっと落ち着かない気持ちにさせられた。忘れないために読む本というのが世の中にはある。
※『夜』はアウシュヴィッツからの生還者による回想記。著者はのちにノーベル平和賞を受賞した。『ビラヴド』は1987年の小説で、奴隷制の記憶に取り憑かれた母娘を描く。著者もノーベル文学賞作家。
27. 名無しのReddit住民
カズオ・イシグロの『日の名残り』。間違った信条にしがみついたまま年を取った男の一生を、本人には最後まで認めさせないやり方で描き切る。イギリスの大きな屋敷の内側の描写も細かくて、終盤の桟橋の場面で全部が効いてくる。映画も素晴らしいけど、本のほうが刺さり方が深い。
※1989年刊。イギリスの名家に仕えた執事が、旅の途中で半生を振り返る。ブッカー賞受賞作で、アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされた。著者は日系イギリス人のノーベル文学賞作家。
28. 名無しのReddit住民(>>27への返信)
同じ作者なら『わたしを離さないで』のほうを推したい。何が起きているかを読者だけが先に察していて、登場人物のほうはそれを受け入れている。あの温度差がずっと苦しい。どっちを先に読んでも、結局もう一冊買うことになるよ。
※『わたしを離さないで』は2005年の小説。日本でもドラマ化された。設定を大声で説明せずに淡々と進む語り口が特徴。
29. 名無しのReddit住民
『君のためなら千回でも』。読んでいる途中で一度こわされて、読み終わるころにはちゃんと組み直されていた。裏切ってしまった側の視点で最後まで書き切るのは相当しんどいはずなんだけど、そのしんどさから逃げないから信用できる本になってる。
※2003年刊、アフガニスタン出身の作家カーレド・ホッセイニの長編。原題は The Kite Runner。凧揚げの場面から始まる少年二人の物語で、世界的なベストセラーになった。
30. 名無しのReddit住民
『アルジャーノンに花束を』で締めてほしい。文章そのものが主人公と一緒に変わっていって、後半で綴りが崩れ始めたところで本を閉じて天井を見た。ここまで形式と中身が一致した小説を他に知らない。人に勧めるときは、必ず一人で読める時間を作れとだけ言ってる。
※1959年発表の短編を1966年に長編化した作品。手術で知能を得た青年の日記という形式で書かれている。日本でも繰り返しドラマ化されてきた。作者はダニエル・キイス。
まとめ
挙がった本を並べてみると、傾向が三つに分かれる。ひとつは『モンテ・クリスト伯』『高慢と偏見』のように、物語の骨組みそのものが完成していて何度読んでも崩れない古典。ふたつめは『アルジャーノンに花束を』『日の名残り』のように、語り手の視点や文章の形式そのものが仕掛けになっていて、読み終えた瞬間に世界の見え方が変わるタイプ。そして『人類が知っていることすべての短い歴史』のように、難しいことを難しいまま出さずに手渡してくれる本も強く支持されていた。共通しているのは、どれもあらすじを説明しても面白さが伝わらないこと。だから勧める側は最後に「とにかく読んで」としか言えなくなる。その一方で、長さや文体で挫折したという正直な告白も同じくらい並んでいて、完璧と言われる本ほど入り口が険しいのも確かだった。皆さんが、多少うっとうしがられても誰かに読ませたい一冊は何ですか?

コメント
デヴィド・リンゼイ 「アルクトゥルスへの旅」