アメリカでは、刑事裁判でも民事裁判でも、事実関係の判断を市民から選ばれた陪審員が担うことがある。ある日いきなり裁判所から呼出状が届き、指定された日に出頭させられ、そこで「陪審員選任手続き」にかけられる。検察側と弁護側の弁護士が候補者に次々と質問し、自分の側に不利になりそうな人をふるい落としていく仕組みだ。
ということは、呼ばれた側から見れば話は逆になる。ここで一言まずいことを言えば、堂々と家に帰らせてもらえるわけである。「弁護士のみなさん、選任手続きで人が外された最速記録は?」というスレッドに、現役の法曹関係者から一度呼ばれただけの一般人まで、体験談が一気に集まった。
元スレッド:r/AskRedditより
※ 陪審員選任手続き(voir dire)= 呼び出された候補者に裁判官と双方の弁護士が質問し、公平に判断できる人かを見極める手続き。日本の裁判員制度にも似た質問手続きはあるが、アメリカは当事者双方が理由を説明せずに一定人数を外せる枠を持っている点が大きく違う。だから「なぜ外されたのか」が本人にも分からないまま帰されることが珍しくない。
海外の反応
1. 名無しのReddit住民
「原告は◯◯病院を訴えています。この病院と何か関わりはありますか?」
「妻と娘の命を助けてもらいました」
やり取りはこれで終わり。もう次の人の名前が呼ばれてた。
2. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
私のときは「この病院で働いている知り合いはいますか」と聞かれたので、産科病棟の看護師さんの名前を思いつく限り全員挙げていった。おばがそこの看護師で、しょっちゅう差し入れを持っていってたからね。三人目を読み上げたあたりで「もう結構です」と止められた。3. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
当時は救急で働いていて、飲酒運転の裁判の候補に呼ばれた。「あの人たちが他人に何をするのか毎晩見ています。公平になんて無理です」と正直に言った。それで即お帰りかと思ったら、裁判官はそこからさらに5分も質問を続けてきたんだよ。あれは何を期待してたんだろう。
4. 名無しのReddit住民
私は弁護士だけど、夫は法律とはまったく無関係の仕事。大きい街に住んでる。その夫が法廷に入ったところ、ロースクール時代の私の親友(今は検事)がいて、二人で「よう」と手を振り合ってしまった。他の候補者にはまだ一問も聞いていない段階で、いきなり夫のところに来て「検察官と面識がありますか?」。「はい、2か月前の私の結婚式に来てくれました」。即解任。
5. 名無しのReddit住民(>>4への返信)
知り合いが呼ばれたときは、証人のリストを渡されて「この中に知っている人はいますか」と聞かれた。「はい、この人は父のビジネスパートナーでした。ただ——」と言いかけたところで検察官が割って入り、「でも、はナシです。偏りのある方を陪審に入れるわけにはいかないんですよ」と演説を始めてしまい、最後まで喋らせてくれない。しびれを切らした彼は立ち上がって「止まって!」と一喝したそうだ。静まり返ったところで一言、「その人、3か月前に亡くなってるんですけど、それでも関係ありますか?」。検察も弁護側も、証人の一人が死んでいることを把握していなかった。
ちなみに彼はそれでも外された。
6. 名無しのReddit住民
BLMのTシャツを着て、MAGAの赤い帽子をかぶった男が来たことがある。検察も弁護側も、我先にとこの人を外そうとしていた。あんなに息の合った両者は後にも先にも見ていない。
※ BLM(ブラック・ライブズ・マター)= 黒人への差別や警察暴力に抗議する運動。MAGA帽= トランプ大統領支持者の象徴になっている赤いキャップ。アメリカでは正反対の立場を示す記号として扱われていて、両方同時に身につける人はまずいない。
7. 名無しのReddit住民(>>6への返信)
裁判所が絶対に教えたくないこの裏ワザ。今すぐクリック。
※ 英語圏のネット広告にありがちな「医者が嫌がるこの裏ワザ」という煽り文句のもじり。8. 名無しのReddit住民(>>6への返信)
念のため言っておくけど、あれはカニエではないよ。
※ カニエ・ウェスト(現在の名義はイェ)= 黒人ラッパーでありながらMAGA帽をかぶって支持を表明し、大きな物議を醸した。
9. 名無しのReddit住民
候補者の一人が、被告側の弁護人と結婚していた。名前が読み上げられた瞬間、法廷にいる全員の首が同じ方向に動いたのを覚えてる。
10. 名無しのReddit住民(>>9への返信)
うちの管轄では、候補者が担当検事の母親だったことがある。裁判官は一切慌てず、「息子さんは実にいいお仕事をされていますよ。では、良い一日を」とだけ言って帰した。あの手際の良さからして、たぶん初めてじゃない。
11. 名無しのReddit住民
検察側から質問された。「お子さんはいますか?」と聞かれたので「今ちょうど妊娠中です」と答えたら、「では今日はゆっくりお過ごしください」だってさ。笑ってしまった。その場で免除。
12. 名無しのReddit住民(>>11への返信)
それ、子どもが被害に遭った事件だったから外されたパターンでは……。妊娠中の人を陪審に入れると感情の振れ方が読めないから、検察側は真っ先に避けたがると聞いたことがある。
13. 名無しのReddit住民
地味だけど、実際はこのパターンが圧倒的に多い。
「本件は◯◯の罪に関する刑事裁判です。過去に◯◯の被害に遭われた方、関わったことのある方はいらっしゃいますか」
——6番の候補者が手を挙げる。
「ご自身の経験と切り離して、公平に判断できると思いますか」
「無理です」
裁判官「6番の方は退席していただいて結構です」
14. 名無しのReddit住民
呼出状がうちの猫宛てに届いた。手違いじゃない。「フェリックス・マルティネス」——獣医のカルテに載っている正式な名前だ。私の姓に猫の名前。いつの間にか有権者登録までされていた。
役所に電話して「うちの猫に陪審員の呼び出しが来ました」と伝えたら、「お名前は記載どおりですか?」「はい、でも猫です」「その方はこの郡の住民ですか?」「合法的な猫です」。免除申請を出したら「医学的理由の証明が不十分」で却下された。獣医に「種に起因する制約により、発話・読字・訴訟手続きの理解ができない」という診断書まで書いてもらったのに、それも却下。
最後は出頭命令が来たので、キャリーに猫を入れて、却下通知の束ごと裁判所に持っていった。受付「フェリックスさんは?」私「これです」受付「……猫ですね」私「6週間ずっとそう言い続けてます」。上司が飛んできてその場で免除。後日、正式な謝罪文と有権者登録カードが届いた。今度はちゃんと私宛てで。フェリックスは今、その呼出状の上で寝ている。
15. 名無しのReddit住民(>>14への返信)
どこか近所に本物のフェリックス・マルティネスさんが住んでいて、「何か大事な用事を忘れている気がする」ともやもやしたまま暮らしてるわけだ。かわいそうに。16. 名無しのReddit住民(>>14への返信)
この話、数か月前に別のSNSで読んだ覚えがあるんだよな。出来がいいから何度も回ってくるんだろうけど、そろそろ元の投稿主が誰なのか気になってきた。
17. 名無しのReddit住民
被告の名前が読み上げられた瞬間に帰された。10年前、高校でそいつを殴って停学を食らったのが私だったので。向こうも私の顔を見て気づいてたと思う。
18. 名無しのReddit住民
弁護士じゃないけど、受付でサインした瞬間に逮捕された男を見た。別の州から身柄の引き渡し請求が出ていたらしい。
※ 身柄引き渡し請求= 別の州や国で指名手配されている人を、そちらに引き渡すよう求める手続き。裁判所の受付は本人確認をするので、指名手配中に出頭すると当然こうなる。
19. 名無しのReddit住民(>>18への返信)
指名手配されてるのに市民の義務をきちんと果たしに来たわけだから、その姿勢だけは評価してあげてほしい。20. 名無しのReddit住民(>>18への返信)
交通違反で法廷に行ったとき、私を含めて10人くらいが順番待ちをしていた。隣に座っていた男が名前を呼ばれて演壇の前に立った瞬間、横のドアから国境警備隊の職員が2人入ってきて、手錠をかけて連れていった。そのまま強制送還だそうだ。順番待ちの列が一気に静かになった。
21. 名無しのReddit住民
うちの父は「被告が自分から立って弁明しないなら、そいつは有罪だと思う」と言い放って外された。本心ではまったくそう思っていない。ただ完全歩合制の営業マンだったので、何としても現場に戻りたかっただけ。
※ アメリカでは被告人が証言台に立たない権利があり、黙っていることを不利に扱ってはいけないのが大原則。だからこの一言は選任手続きでは一発退場になる。
22. 名無しのReddit住民(>>21への返信)
友人が刑事なんだけど、ある裁判に出廷したとき、候補者の一人が「参加できない理由はありますか」と聞かれて友人を指差し「彼と友達なんです」と答えたそうだ。友人はその男を人生で一度も見たことがなかった。それでもその場で外された。数週間後、街で見かけたその男に謝られたらしい。「どうしても仕事を休めなくて」だって。
23. 名無しのReddit住民
父の夢は陪審員を務めることだった。アメリカ人の人生に一度は経験しておくべきことだ、というのが持論でね。70代前半になってようやく呼ばれて、弁護士の最初の質問が「大学は出ていますか?」。「はい」と答えた瞬間に解任。納得できずに再考をお願いしたら「では何の学位ですか」と返ってきたので、「学士は歴史学、それからMBA、アメリカ史の修士、博士もアメリカ史です」と全部答えた。弁護士は「では博士、良い一日を」。
24. 名無しのReddit住民
ADHDで今は薬を飲んでいない、まったく集中していられる自信がない、とそのまま申告した。びっくりするほどあっさり「お気をつけてお帰りください」だったよ。ニューヨーク州の北のほうでの話。
25. 名無しのReddit住民
自営でリフォームの仕事をしてる。呼出状が来たのがちょうど現場の詰まっている時期で、「一人親方で、他の職人さんたちも自分の作業待ちなんです」と書いて返送したら、出頭すらせずに免除された。ただ本音を言うと、余裕をもって知らせてくれるなら一度はやってみたい。退屈かもしれないけど、少なくとも初めての経験にはなるでしょ。
26. 名無しのReddit住民(>>25への返信)
みんながそうやって上手に抜けていくと、最後に陪審席に残るのは「断り方を知らなかった人」だけになるんだよな。自分が裁かれる側に立つ日を想像すると、笑い話として消費していいのか少し複雑な気持ちになる。
27. 名無しのReddit住民
15、16年前に呼ばれた事件が、事故のせいで「もう職務に耐えられなくなった」という警察官の件だった。ただ一つ問題があって、その警官の顔に見覚えがあったんだ。家の向かいのWawaで週に何度も見かけていて、しかも大抵はジム帰りらしい格好で、どこも不自由そうには見えなかった。すぐ手を挙げてそのまま報告したら即解任。あの警官がその後どうなったのかは知らない。
※ Wawa(ワワ)= アメリカ東部を中心に展開している、ガソリンスタンド併設の大型コンビニチェーン。地元民が毎日のように立ち寄る生活圏の店。
28. 名無しのReddit住民
「ホームレスの人と関わった経験はありますか」と聞かれたので、正直に答えた。「夜遊びから帰宅したら、自宅のクローゼットにホームレスの男性が入っていたことがあります」。解任。
29. 名無しのReddit住民
大陪審の呼び出しで行ったとき、軍服姿でダッフルバッグを担いだ男が入ってきて、その日の午後にイラクへ発つ命令書を裁判官に見せていた。私の知る限り、あれが最速記録。
※ 大陪審= 起訴すべきかどうかを市民が判断する手続きで、裁判そのものではなくその手前の関門にあたる。呼び出されるのは通常の陪審とは別枠。
30. 名無しのReddit住民
高級ロードバイクに乗っていた高齢の男性が、市の水道管から漏れた水で路面が濡れていたせいで転倒したとして市を訴えた、という件で呼ばれた。私は一言、「雨が降って転んだときは、この方は誰を訴えるんでしょうね」。おかげでその日は早めの昼食にありつけた。
まとめ
並べてみると、退場の仕方はだいたい三種類に分かれる。事件や関係者と本当に縁があってしまった人、公平ではいられないと正直に申告した人、そして最初から帰るつもりで爆弾発言を用意してきた人だ。皮肉なのは、三番目が一番あっさり通ってしまうこと。双方の弁護士は「自分の側に不利かどうか」だけを見て外していくので、真面目に受け答えするより、どちらかが嫌がりそうな一言を置くほうが早い。
日本の裁判員制度にも選任手続きの質問はあるし、仕事や介護を理由にした辞退の申し出もできるが、当事者が理由を言わずに外せる枠はごく限られている。呼ばれた市民の側が「どう言えば帰れるか」を体験談として共有し合える程度に手続きが開かれているのは、かなりアメリカ的な光景に見える。一方で、上手に抜ける人が増えるほど陪審席に残るのは断り方を知らなかった人ばかりになる、という冷めた指摘も笑い話の合間にしっかり混じっていた。
皆さんは、もし裁判員に選ばれる立場になったら、正直に「無理です」と言えますか? それとも、一度は務めてみたいと思いますか?

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