人生でいちばん綺麗だった人は、案外テレビの中ではなくスーパーのパン売り場にいたりする。「自分の目で直接見た中で、いちばん見た目が美しかった人は誰?」という質問に、名前も知らない通りすがりの誰かの話と、たまたま実物を見てしまった有名人の話が入り混じって集まった。四十年経っても忘れられない、という人が何人もいる。
元スレッド:r/AskRedditより
海外の反応
1. 名無しのReddit住民
その日、俺はパン売り場でいつものハニーウィートを探して歩いていた。そこで彼女を見た。
サンドイッチ用のロールパンの棚に身を乗り出して、食パンを片っ端から手に取っては戻している。ポテトブレッド、全粒粉、職人焼きのサワードウ……この人、自分が何を買いたいのかまったく決まってないな、と思った。
俺はただ立ち尽くしていた。パンの袋に描いてあるクマのマスコットに「ちょっと頬をつねってくれ」と本気で頼みそうになった。彼女が一瞬こっちを見た。突っ込んでくる電車を眺める牛みたいな顔でぼーっと突っ立っている俺を。そして七ドルのデイヴズ・キラー・ブレッドを一斤つかんで、行ってしまった。
あれが u/JNorJT の奥さんだ。
※ デイヴズ・キラー・ブレッドはアメリカの有機全粒粉パン。一斤七ドル(約千円)はスーパーのパンとしてはかなり高い部類に入る。
2. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
七ドルのパンだけつかんで去っていくところで完全に負けが確定してるの、構成として完璧すぎる。追いかけずにハニーウィートを買って帰ったあんたの判断は正しいよ。3. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
それ、どこかの誰かの奥さんだろ。というかその旦那、たぶんもうこのスレのどこかにコメントしてると思う。
※ u/JNorJT はこのスレッドに出てくる一般ユーザーのハンドル名。一番人気のコメントがオチにこの名前を使ったせいで、以降スレ全体で「結局あの人の奥さんが優勝」と乗っかるのが定番の悪ノリになった。
4. 名無しのReddit住民
朝の通勤中、上半身裸で走っているランナーとすれ違った。映画『デンジャラス・ビューティー』に出ていたベンジャミン・ブラットがそのまま道路に出てきたみたいな人だった。こっちが凝視してるのに気づいて、ウインクしてきた。私は完全にパニックになって、信号が青になる前に危うく対向車線へ突っ込むところだった。
※ 『デンジャラス・ビューティー』は二〇〇〇年公開のアメリカのコメディ映画(原題 Miss Congeniality)。ベンジャミン・ブラットは主人公の同僚のFBI捜査官を演じた俳優。
5. 名無しのReddit住民(>>4への返信)
ウインクした本人はたぶん三歩で忘れてる。こっちだけ十年単位で覚えてるやつだよ、これ。事故らなくて本当によかった。
6. 名無しのReddit住民
ロサンゼルスのメディーバル・タイムズ。ショーが終わったあとに客も混ざって踊れる時間があって、出演者の女性がひとりで踊っていた。帰り際にその横を通ったんだけど、どうしても目が離せなかった。人間の形をした夕焼けって感じで、見ているのが物理的につらくなるくらい綺麗だった。あの数十秒だけは今でもはっきり思い出せる。
※ メディーバル・タイムズは、中世の騎士の馬上試合をショーで見せながら食事をする、アメリカの大型ディナーシアターのチェーン。
7. 名無しのReddit住民
名前は分からない。でも十八のとき、男だけ六人でローマに行って、すれ違った女の子が信じられないくらい綺麗だった。同い年くらいで、明るい色のワンピースを着ていて。全員あんぐり口を開けて黙り込んだ。向こうもそれに気づいて赤くなっていた。角を曲がる直前、まだ見てるかどうか確かめるようにこっちを振り返って、俺たちは大騒ぎで盛り上がった。向こうも笑ってたから、変な空気にはならなかった。あの頃は全員、毛づくろいのされてない子犬みたいなもんだったよ。
8. 名無しのReddit住民(>>7への返信)
振り返って確認するところまでがセットなの、向こうもちゃんと楽しんでるよね。十八歳の男六人をまとめて黙らせるって、それはもう称号だよ。
9. 名無しのReddit住民
九八年か九九年ごろ、ニューヨークのクラブのVIP入口で見かけたサンドラ・ブロック。あんなに固まったことは後にも先にもない。呼吸の仕方を一瞬忘れるって、比喩じゃないんだなと思った。
まあ、俺はまだ u/JNorJT の奥さんには会えてないんだけどね。
10. 名無しのReddit住民
妻の彼氏。あいつは背も高いし顔もいいし、車のオイル交換も自分でやるし、うちの犬にもやたら懐かれてる。何でもできる男だよ。俺にできるのは、こうしてコメントを書くことくらいだ。
※ 英語圏のネットで定番の自虐ジョーク。「妻の彼氏(my wife’s boyfriend)」という架空の人物を持ち出して、自分を落として笑いを取る言い回し。
11. 名無しのReddit住民
ロンドンの通りを歩いていたら、正面から息を呑むような金髪の女性が歩いてきた。遠目でも文句なしに整った人だと分かるレベル。
ただ、彼女は男と手をつないでいた。じろじろ見るのは行儀が悪いと思って、すれ違うまで反対側を向いていた。そこで、その男の顔に見覚えがあることに気づいた。もう一度見て確信した。ジュード・ロウだった。
ジュード・ロウ相手なら、俺が連れをちょっと見たところで痛くも痒くもないだろう。恋敵としては虫けら以下だ。そう腹をくくって改めて見たら、女性のほうはシエナ・ミラーだった。理解が追いつかないレベルで綺麗だった。
で、質問への答えだけど――二〇〇四年ごろのジュード・ロウ。俺はストレートの男だけど、映画スターの恋人よりも彼のほうが本当に整っていた。
※ シエナ・ミラーはイギリスの女優・モデル。二〇〇〇年代半ばにジュード・ロウと交際していたことが大きく報じられた。
12. 名無しのReddit住民(>>11への返信)
実物の有名人って、だいたい「思ってたより小柄だし普通の人だな」で終わるんだよね。画面より良かったって話のほうがめずらしい。俺なんか空港で見かけた俳優が想像の八割くらいの大きさで、軽くショックだったよ。
13. 名無しのReddit住民
大学生のころ、バイト先に用があって来た女の子。近づいてきて、笑って、何かを頼んできた。何を頼まれたのかすら覚えていない。本当に言葉が出なくて、自分でも何を喋っているのか分からないくらいしどろもどろになった。五十になったけど、あそこまで頭が真っ白になったのは後にも先にもあの一回きり。
あの子はたぶん、そのあと u/JNorJT と結婚したんだと思う。
14. 名無しのReddit住民
ノー・ダウトがブレイクする直前、中西部の小さなライブハウスで観た。最前列でステージに肘をついていて、グウェン・ステファニーとの距離は一メートルもなかった。神に誓ってもいいけど、あれは人を酔わせる女神だった。
正直、好みのタイプではないんだ。それでも、あの場を丸ごと支配する存在感はどうかしてた。
※ ノー・ダウトは一九九〇年代に世界的なヒットを出したアメリカのバンド。ボーカルのグウェン・ステファニーはその後ソロでも成功した。
15. 名無しのReddit住民
二〇〇〇年前後のマーク・マグラス。目の前に現れた瞬間、膝から下の力が全部抜けた。四半世紀経ってこれしか言えない自分が情けないけど、本当にそれ以外の感想が出てこないんだ。
※ マーク・マグラスはアメリカのロックバンド、シュガー・レイのボーカル。一九九〇年代後半に「Fly」などのヒット曲で人気を集めた。
16. 名無しのReddit住民
去年の夏、仕事帰りに車を走らせていて、赤信号で止まったときのこと。どこかの会社の敷地で、オーバーオール姿の金髪の女性が芝を刈っていた。造園か何かの管理会社の人だと思う。完全に見入ってしまって、信号が青になっても発進しなかった。後ろの車にクラクションを鳴らされてようやく我に返った。あれきり二度と見かけていない。
17. 名無しのReddit住民(>>16への返信)
クラクションで我に返るまでがワンセットなの、このスレで何回目だよ。信号待ちの一分間って、人生でいちばん無防備な時間なのかもしれないな。
18. 名無しのReddit住民
何年か前に見たガソリンスタンドの店員さん。州をまたいで通院しなきゃいけなくて、送るのを露骨に嫌がった当時の夫に、給油代も給油作業も自分でやらされた。急いで支払いに入ったら、その店員さんが信じられないくらい整った顔をしていた。横顔の線がとにかく印象的で、日に焼けた肌に、セージグリーンの目。今まで見た中でいちばん人目を引く人だった。自分が何番の給油機なのかを伝える言葉すら、すぐには出てこなかった。あのスタンドには二度と行っていないから会えていないけど、五年経った今もはっきり覚えてる。
19. 名無しのReddit住民
ドラッグストアでたまたま見かけた女の子。飾り気ゼロなのに、とんでもなく綺麗だった。神様が手で紡いだんじゃないかってくらい。ずっと見ていたかったけど、こっちが見ていることに向こうも気づいているのが分かった。妬んでると思われたくなかった。まあ実際まるっきり妬んでたんだけど、それ以上にただ圧倒されてた。
※ 元コメントに出てくるのはウォルグリーン。全米に一万店近くを構える大手ドラッグストアチェーンで、日用品から処方薬まで扱う。
20. 名無しのReddit住民(>>19への返信)
みんなすぐ「神が手で紡いだ」とか言い出すけど、二十年かけて記憶が勝手に美化されてるだけじゃないの、とは思ってる。……と言いつつ、自分にも一人いるから強くは言えない。
21. 名無しのReddit住民
十年前、ロサンゼルスからパリまでエア・タヒチ・ヌイに乗った。搭乗を待っていたら、背の高い綺麗な女性の集団がこっちへ歩いてきて、この航空会社は客室乗務員のレベルが異常だなと本気で思った。
実際はミス・フランスの一行で、タヒチでの撮影の帰りにロサンゼルスで乗り継ぎをしていたらしい。機内は彼女たち用に小さなクッションまで用意されていた。俺はたまたまミス・アルザスの近くの席になったんだけど、綺麗なだけじゃなくてすごく感じのいい人だった。
あとルーヴル美術館でナタリー・ポートマンを見かけた。服装も雰囲気も目立たないようにしていたけど、それでも十分すぎるほど綺麗だった。
22. 名無しのReddit住民
知らない誰かの話ばかりで少し寂しくなったので書いておく。三十五年連れ添った夫。二十代の頃も良かったけど、白髪が増えてからのほうがいい顔になった。毎朝キッチンでコーヒーを淹れている後ろ姿が、今のところ人生でいちばん綺麗な光景。
23. 名無しのReddit住民
ヒュー・ジャックマンがプールから上がってくるところに居合わせたことがある。「最もセクシーな男性」に選ばれてから一、二年後くらいの時期。ストレートの男なので正直あの瞬間は自分には宝の持ち腐れだったけど、文句のつけようがない顔と体だというのは分かった。
※ アメリカのピープル誌が毎年発表する「Sexiest Man Alive」のこと。ヒュー・ジャックマンは二〇〇八年に選ばれている。
24. 名無しのReddit住民(>>23への返信)
有名人枠なら俺の一位はサルマ・ハエックで、二位がアレッサンドラ・アンブロジオ。どっちも一度きりのすれ違いだったけど、この順位だけは十年以上動いていない。
※ アレッサンドラ・アンブロジオはブラジル出身のモデル。ヴィクトリアズ・シークレットの看板モデルの一人として知られる。
25. 名無しのReddit住民
かかりつけのカイロプラクターの先生。普段は口の減らない自分が、あの人の前だと借りてきた猫みたいに縮こまる。彼女が施術室に入ってくると、部屋の照明がほんの少し落ちた気がする。所作のひとつひとつに品があって、目が合うと芸術という言葉の意味を思い出す。あの人の笑い声は、秋の涼しい日に広い川を眺めているときに鳴る風鈴みたいなんだ。
※ カイロプラクターは背骨や骨盤の調整を行う施術者。アメリカでは専門の国家資格があり、かかりつけとして定期的に通う人が多い。
26. 名無しのReddit住民(>>25への返信)
後半から完全に散文詩になってて笑った。そこまで言葉が出てくるなら、次の予約のときに一言くらい言えるだろ。
27. 名無しのReddit住民
おまえだよ、スレ主。
……というわけで、そろそろこの部屋の電気を消してくれない?こっちはもう寝ようとしてるんだけど。
28. 名無しのReddit住民
大学のとき、学生会館のバイトで、ぶかぶかのスウェットを着た背の高い一年生と組まされた。初対面なのに、三、四時間かけて棚卸しを一緒にやることになって。終わる頃にはすっかり打ち解けていたから、同じ寮まで送っていって(同じ建物なのに、それまで一度も見かけたことがなかった)、週末に食事でもどうかと誘った。彼女はいいよと言ってくれた。
待ち合わせのとき、彼女は暗い色のショールにくるまっていた。それでも髪が長くて緩く波打っていて、顔がなんだか光って見えた。店に着いてクロークでショールを脱いだ瞬間、その光っている顔と、赤い口紅と、緑の目と、長い栗色の髪と、アイボリーのドレスと、控えめな笑顔が一度に来て、完全にやられた。あの晩の自分はずっとしどろもどろだったはずなのに、それでも彼女は俺を気に入ってくれた。
その年いっぱい付き合って、翌年に俺が交換留学で国を出た。帰ってきた年には、彼女はモデルと役者の仕事が入り始めてニューヨークの大学へ移っていた。そのあとミラノに拠点を移してファッションの仕事を本格的に始めて、彼女がカメラマンと付き合い始めたところで終わった。心が粉々になったよ。
今でもたまに連絡は取る。家族でヨーロッパ旅行に行くとき、パリのことなら彼女がいちばん詳しいから。四十年近く経つのに、目を閉じればあの笑顔がまだ見える。
29. 名無しのReddit住民
四十四年経った今でも覚えてる。ホテルのプールでたまたま一緒になっただけの、名前も知らなかった若い女性。どこを取っても完璧な人だった。そのうえ感じがよくて、優しくて、よく喋る人でもあった。綺麗すぎて、そばにいるのが物理的にしんどくなるタイプの人と言えば伝わると思う。
名前はリサ。こっちがどれだけぎこちなくても、馬鹿にすることも冷たくすることもなかった。
あの日以来一度も会っていないけど、一度も忘れていない。豊かで楽しい人生を送っていてほしい。
30. 名無しのReddit住民
出張でコペンハーゲンにいたときのこと。チボリ公園のそばの大きな交差点で信号が変わって、五十人くらいが一斉に渡り始めた。その人混みの中を反対側から歩いてきた二十五歳くらいの女性があまりに綺麗で、俺は道の真ん中で足が止まった。あからさますぎたのは自分でも分かってる。でも後にも先にも、あれ以上の人は見ていない。
今は七十歳で、結婚して五十年になる。それでも三十年前のあの一瞬だけは、ほとんど完璧に思い出せてしまう。念のために言っておくと、その人は妻じゃない。まあ、そういうこともあるって話だよ。
※ チボリ公園はコペンハーゲン中心部にある老舗の遊園地。市内でもっとも人通りの多い一角に位置する。
まとめ
いちばん多かった答えは、有名人ではなく名前も知らない通りすがりの誰かだった。パン売り場、ガソリンスタンド、赤信号で止まった車の窓の外、ホテルのプール。共通しているのは、相手が「誰か」ではなく「どこで見たか」のほうを全員が正確に覚えていることで、四十年前、四十四年前と年数まで添えて書き込む人が何人もいる。有名人の名前が挙がったコメントですら、結局は実物とすれ違った場所と時期の話になっていた。
もうひとつ面白いのは、みんな自分がどれだけ間抜けだったかを進んで書いているところ。突っ込んでくる電車を眺める牛みたいな顔で突っ立った、クラクションを鳴らされるまで気づかなかった、何を頼まれたのかすら覚えていない。美しさそのものより、それに出くわしたときの自分の壊れ方を語りたいスレッドだったのかもしれない。そして肝心の相手はたいてい、七ドルのパンを一斤つかんで、何も知らないまま去っていく。
皆さんが自分の目で見た中でいちばん綺麗だった人は、どこで見かけた人でしたか?

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