「博士課程に行くべきじゃないのは、どんな人?」——海外の掲示板で博士号を持つ人たちに投げられたこの質問に、当事者からの回答が数百件ぶら下がった。返ってきたのは学歴自慢でも研究礼賛でもなく、「この2つの気持ちがないなら行くな」「自分で学費を払うなら絶対にやめろ」という、驚くほど具体的で身も蓋もない忠告だった。
元スレッド:r/AskRedditより
海外の反応
1. 名無しのReddit住民
「一生かけて研究をやっていきたい」と「どうしても答えを知りたい問いがあって、そこにたどり着くには並外れた訓練が要る」。この2つが自分の中にないなら、行くな。
おまけの条件をひとつ足しておく。「自分で学費を払わないといけない」が当てはまるなら、それも行くな。
2. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
最後の一行がいちばん大事なところだよ。例外はもちろんあるけど、博士課程の費用は基本的に研究助手・教育助手としての給与でまかなうか、勤め先に出してもらうもの。自分の財布から出すものじゃない。※ 米国の理系博士課程は、大学と雇用契約に近い形で授業料が免除され、そのうえ生活費(月10万〜30万円程度)が支給されるのが標準。「学費を払って行く博士課程」は、この前提だと最初から筋が悪いと見なされる。
3. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
もうひとつ足したい。「泥にタイヤを取られて空回りしている状態でも、同じテーマに4〜6年しがみつける自制心があるか?」だね。自分は学校の成績が良かったから、博士は自然な次の一歩に見えてた。でも最初の2年の授業と資格試験が終わったら、あとは自分のテーマしか残らない。それだけでは自分を動かし続けられなかったよ。※ 資格試験=博士候補者資格試験。米国の博士課程では2年前後の授業のあとにこの関門があり、通ると以降は授業がほぼ無くなって研究一本になる。ここで脱落する人も多い。
4. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
そこにもうひとつ加えるなら、「その学位が自分のキャリアの目標に届くかどうか」。研究職じゃなくても博士号が応募要件になっている仕事は普通にあるからね。ただ、お金の面でいちばん賢い道ではまずない、という但し書きは付けておきたい。
5. 名無しのReddit住民
そもそも別物の学位なんだよ。両方持ってる人はみんな分かってる。博士は、その分野の研究と知識を前へ押し出すための学位。修士は、高度な業務に必要な知識を身につけたことを示すための学位。会社での役割に高度な訓練が要るなら修士を取る。自分の頭で考えて分野そのものを広げる立場を目指すなら博士を取る。ただそれだけの違いだよ。
6. 名無しのReddit住民(>>5への返信)
博士持ちだけど、だいたいそのとおり。ただ一点だけ付け足すと、博士課程で身につくのは専門知識だけじゃない。「誰も答えを持っていない問題を、自分ひとりで解いていく手順」が身体に入る。工学の現場だとこれが効いてくる場面は本当に多いよ。
7. 名無しのReddit住民
身も蓋もないけど、ほとんどの職業は修士で十分に足りる。博士号が本当に必要な仕事って、みんなが思ってるよりずっと少ないよ。
8. 名無しのReddit住民(>>7への返信)
自分がやれる研究が心底好きか、いつか大学で教えたいか。そのどちらでもないなら、博士に進む理由はそんなに無いと思う。肩書きが欲しいだけで取りに行く人が多すぎるんだよ。9. 名無しのReddit住民(>>8への返信)
「肩書きのため」で片付けてる人がこれだけいること自体、世の中にもっと教育が要るって証拠じゃないか。自分の業界だと博士と修士では生涯賃金が30万ドルくらい違う。学士は「学べる」ことの証明、修士は「学んだ」ことの証明、そして博士は「この分野をもっと先へ進めたい」という意思表示だよ。何十年も勉強を重ねた人間が全員そろって見栄を張るためにやったと本気で思ってるなら、さすがに考えが浅い。※ 30万ドルはおよそ4,500万円(1ドル150円換算)。ただしこれは投稿者本人の業界での実感値。分野によって差は大きく、生涯収入が逆転する分野もある。
10. 名無しのReddit住民
こっちは修士持ちなんだけど、そもそもその分野の新卒枠すら見つからないんだが……🥲 学位をどこまで積むかの話をする前に、まず募集が出ていてほしい。
11. 名無しのReddit住民
博士号はまだ持ってなくて、今ちょうど半分あたり。いちばん腑に落ちた助言は「修士はキャリアのために取るもの、博士は自分のために取るもの」というやつだった。自分は好きな分野の研究で給料をもらえて、ついでに教える経験も積めるこの数年をかなり楽しんでる。ただ、無給の博士課程だけは誰にも勧めない。そこだけは断言できる。
12. 名無しのReddit住民
迷っている時点で、そして「博士やりたい!」で飛び跳ねる感じが無いなら、やめておいた方がいい。とにかく終わりの見えない消耗戦で、いちばん張り切って入った人間でも終わる頃には燃え尽きてる(自分のことだ)。スタート時点で100%入れ込んでいないと、最後までたどり着けないと思う。あとは、キャリア上どうしても必要な場合だけにしておけ。
13. 名無しのReddit住民(>>12への返信)
博士号の95%は意地だけで書き終えられる、ってよく言われるやつだよね。残りの5%にはまだ一度も会ったことがない。
14. 名無しのReddit住民
これは本当にそう。自分は物理で博士を取って、入るときは相当わくわくしてた。結局はポスドクを何回かやったあとに分野を離れたけどね。驚いたのは「学部の次にやることだから」という理由で来ている人がけっこういたこと。だいたいその層がいちばんしんどそうにしていたし、修了までたどり着かない人も多かった。
※ ポスドク=博士号を取ったあと、任期付きで研究を続ける立場。数年契約の職を渡り歩くのが普通で、常勤の職に就けないまま30代後半になる人も珍しくない。
15. 名無しのReddit住民
博士課程に自分でお金を払う人間は、ひとりもいるべきじゃない。給与つきのプログラムに行くか、それが無理なら別の道を探すか、その二択だよ。
16. 名無しのReddit住民(>>15への返信)
そして、その給与つきの中身が本当に生活できる額なのかまで確認すること。借金を重ねたり、副業で食いつないだせいで在籍年数が延びたりするのは、学費が「タダ」でも良い道じゃない。17. 名無しのReddit住民(>>15への返信)
まったく同意。自分は大学の職員という扱いで、福利厚生もフルにつくし、契約書に研究へあてる時間まで書いてある。博士に進むと決めた理由は、正直そこ一点だけだった。
18. 名無しのReddit住民
100%これがやりたいと言い切れないなら、手を出さない方がいい。自分は博士号を持ってる。取り切るのに人生のかなりの部分を使った。そのすぐあとに政府が医学研究の予算をいじり始めて、ポストごと消えた。おまけに博士で身につくのは極端に狭い専門だからね。「心血管の遺伝疫学ができる人を探しています」という求人が、世の中に何千件も並んでるわけがないんだよ。
19. 名無しのReddit住民(>>18への返信)
それは正確だと思う。ただ自分は学部生には、むしろ博士課程に出願しろと言ってる。自腹で何百万も払って修士を取らなくても、博士課程に入って途中で抜ければ修士号だけ持って出られるからね。※ 米国では博士課程を途中で辞めるときに修士号だけ受け取れる制度があり、これを「マスターアウト」と呼ぶ。給与をもらいながら修士相当まで進める抜け道として実際によく使われている。
20. 名無しのReddit住民
博士号があると楽になる、あるいは無いとそもそも入れない道はたしかにある。研究に専念する教授職、博士号がやたら重んじられるシンクタンクや研究所の技術スタッフ、技術分野で高い報酬をとる専門家証人やコンサルタント。このあたりを狙うなら取る意味がある。
ただ、全職種を平均してならすと、統計的にいちばん割のいい選択は修士で止めることだと思う。博士で多少年収が上がっても、その間働いていなかった数年分が生涯年収を静かに削っていくからね。
21. 名無しのReddit住民
細かい話だけど、みんな「博士号」を「ドクター」全般の代名詞みたいに使ってるよね。博士号はすべてドクターだけど、ドクターがすべて博士号なわけじゃない。医師、法務博士、獣医、歯科医。ああいう学位は研究者じゃなくて、現場で実務をやる人の資格なんだよ。
※ 米国では医師・弁護士・獣医・歯科医もそれぞれ「ドクター」の学位を取る。日本の医学部や法科大学院に近い実務者養成の課程で、研究者を育てる博士課程とは目的そのものが別。
22. 名無しのReddit住民(>>21への返信)
それそれ。分野によっては博士に進むより、修士をもう一つ取って幅を広げた方がいい場合もある。たとえば学校長を目指すなら、教育学の博士号より教育学修士+経営学修士の組み合わせの方が実務に効く。研究職向けじゃない専門職の博士号も色々あって、経営学・教育学・臨床心理学・工学にはそれぞれ専用の学位がある。安い給料で4年間ひたすら研究、が向いてない人にはそっちの方が合ってると思うよ。
23. 名無しのReddit住民
合成有機化学の博士号持ち。だから完全にハードサイエンス側の視点で、他分野には当てはまらないかもしれない。
短い答え:誰もやるべきじゃない。
もう少し長い答え:どこかがあなたに世間の中央値くらいの給料を払い、かかる費用を全部持ち、しかも金銭的なペナルティ無しでいつでも辞められる——この条件が揃わないなら、考えるのもやめておけ。まずは志望する業界で3〜5年働いて、それでもまだやりたければ戻ってきて、この段落をもう一度読め。
相談されたとき自分が必ず聞くのは「精神を病んでますか?」だ。「はい」なら(冗談で)行ってこいと言う。「いいえ」なら「じゃあ、病んでみたいですか?」と続ける。
博士を取り切った人で、まるごと無事なままの人をほとんど見たことがない。入る前か出たあとに、どこかしら傷がつく。研究のことを考えずにいられなくなって、それが人間関係まで削っていく。しかもその状態が周りでは当たり前になってる。全然当たり前じゃないんだよ。
後悔はしてない。ただ「普通のやり方」で勧める気にはならない。低い賃金、常識外れの労働時間、人生の他の全部より研究を優先すること。とはいえ24歳の自分にこの話をしたところで、たぶん情熱と好奇心で聞き流して進んだと思うけどね。
24. 名無しのReddit住民(>>23への返信)
その「まず3〜5年働け」を実際にやった側だけど、結果として戻らなかったよ。2年目に給料が博士課程の3倍になった時点で、自分の中の何かが静かに終わった。あの2年が無かったら今も研究室にいたと思うし、それが良かったのか悪かったのかは、正直まだ分からない。
25. 名無しのReddit住民
自分が博士をやってる理由は、誰も答えを出していなくて、しかも誰も答えを出そうとしていない問いがあるから。そしてその答えを、どうしても自分が知りたいから。
(追記:普段は自分の研究の話をするのが大好きなんだけど、テーマが狭すぎて具体的に書くと身元が割れる。ざっくり言うと、都市を緑化することが本当に生き物の多様性の役に立っているのか、という話です)
26. 名無しのReddit住民
欲しいなら取ればいいし、要らないなら取らなければいい。結局はそれだけの話だと思うんだけどな。
出典は自分。5年間ひたすら本を読んでいてお金がもらえることに舞い上がっていた女です。修士のときは、提出物が長くなっただけの学部という感じだった。
27. 名無しのReddit住民
修士は、その分野と一晩だけ濃密に付き合うようなもの。博士は、その分野と24時間365日、逃げ場のない同棲生活を送るようなもの。後者が自分に向いてないと思うなら、行かない方がいい。
28. 名無しのReddit住民
自分は教授で、しかもかなり長くやってる。そのうえで言うけど、今の就職市場は本当にひどい。博士に進むにしても、教授になる前提で人生設計をするのはやめた方がいい。実際に入り込めるのはごく一部で、運と論文数と地道な仕事量、そしていちばん効くのが「誰を知っているか」だから。
※ 米国の大学教員は、任期付きの職からテニュア(終身在職権)の審査を経て常勤になる仕組みが主流。その審査に進める枠自体が減り続けていて、非常勤の掛け持ちで食いつなぐ博士号取得者が大量にいる。
29. 名無しのReddit住民(>>28への返信)
「誰を知っているか」に全部が乗ってるんだよね。自分の指導教員が学会でひと言かけてくれるかどうかで、書類の通り方が露骨に変わる。だから指導教員選びは、研究テーマ選びより重い。テーマは途中で変えられるけど、指導教員はそう簡単に変えられないからね。※ 米国の博士課程では、指導教員が給与の出所・研究テーマ・修了の判定・推薦状のすべてを握るため権限が極端に強い。相性の悪い教員に当たると、そのまま数年を失うことがある。
30. 名無しのReddit住民
このスレ、みんな大事なところを見落としてないか? キャリアと収入の話に寄りすぎだよ。
人間って、その行為そのものを追いかけるために動くことがあるでしょ。自分のまわりの博士たちは、収入を増やすために来たわけじゃなかった。知りたいことを追いかけていったら自然にそこへ道が続いていて、自分の名前で小さな一区画に何かを置いてくる、そのために来てたんだよ。
まとめ
回答を並べていくと、判断基準は意外なほどひとつに集約されていく。「誰かが自分にお金を払ってでも解かせたい問いなのか、自分がお金を払ってでも解きたい問いなのか」。前者なら給与つきの博士課程が見つかるはずで、後者なら——多くの回答者が経験として語っていたように——その情熱は数年かけて静かに削れていく可能性がある。
ここで効いているのが制度の前提だ。米国の理系博士課程は授業料が免除され、生活費まで支給されるのが標準なので、「自腹なら行くな」という助言がそのまま成立する。日本ではまだ自己負担で進む人が多く、この差はかなり大きい。それでも「修士はキャリアのため、博士は自分のため」という線引きや、「教授になる前提で人生設計をするな」という警告、そして指導教員の選び方が研究テーマより重いという話は、そのまま国内にも刺さるはずだ。
そして忘れたくないのは、同じスレッドに「都市の緑化が本当に生き物の役に立っているのか知りたい」という人や、「5年間ずっと本を読んでいてお金がもらえるのが嬉しくてたまらなかった」という人がちゃんといたこと。行くな行くなの声に混ざって、行ってよかった側の理由も驚くほど具体的だった。皆さんが人生のどこかで「これだけは答えを知りたい」と思ったことは、何でしたか?


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