英語では、調べ始めたら止まらなくなる話題のことを、『不思議の国のアリス』になぞらえて“ウサギの穴”(rabbit hole)と呼びます。海外掲示板で「ネットで見つけた、いちばん深いウサギの穴は?」と聞いたスレッドには、のぞいたら最後、なかなか戻ってこられない入口がずらりと並びました。コメント欄で3年間、1万5000件以上もゲーム機の優劣を言い争った2人。「1週間は何日あるか」で引かなかったボディビルダー。砂漠で消えた一家を何年も探し続けた男性のブログ。そして、質問を文字どおりに受け取って、本物の巣穴の深さを答えた人もいました。
元スレッド:r/AskRedditより
海外の反応
1. 名無しのReddit住民
ボディビルダー2人が「1週間は何日あるか」で延々と言い争ってたスレ。
筋肉の話をしに来たはずの大人が、大まじめに曜日を数え合ってるんだよ。読み始めたら、最後まで止まらなかった。
※ 米国のボディビル関連サイト「Bodybuilding.com」の掲示板に立ったスレッドのこと。「1日おきにトレーニングすると週に何回になるか」という話から、1週間は何日あるのかという口論になった。英語圏のネットでは語り草になっている。
2. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
そのスレなら、Wayback Machineにちゃんと残ってるよ。
こういう宝物を保存しておいてくれるんだから、本当にありがたい。
※ Wayback Machine:米国の非営利団体インターネット・アーカイブが運営する、過去のウェブページを保存して公開しているサービス。すでに消えたページも、保存された当時の姿で読める。3. 名無しのReddit住民(>>1への返信)
文句なしに史上最高のスレ。数年おきに読み返してるけど、毎回笑ってしまう。
悪口の応酬に、常識のなさ。たとえばこれ。
「今日は土曜だ。日曜まで2日もない」
4. 名無しのReddit住民
ファイル名が「IMG_」で始まるYouTube動画。集めてるサイトの説明を、そのまま引用するよ。
「2009年から2012年にかけて、iPhoneの写真アプリには“YouTubeに送信”ボタンが標準で付いていた。そうして投稿された動画の多くは、ファイル名が初期設定の IMG_XXXX のまま。どこかの誰かの、編集されていない生の瞬間を閉じ込めたタイムカプセルになっている」
編集も字幕もない、知らない人の何でもない一日。それを延々と見てしまう。
5. 名無しのReddit住民
約6フィート。たいていの巣穴はそれ以上深くならない。硬い粘土の層に突き当たるか、地下水の水位に近づきすぎるかで、ウサギはその先を掘りたがらないからね。
何年も前に、フェニックス近郊のどこかの裏庭で巣穴を掘り当てた人が、SNSに投稿してたんだ(その投稿はもう見つけられないんだけど)。プールを作ろうと掘り進めて、6フィートくらいまで行ったところで巣の部屋にぶつかって、赤ちゃんウサギがごっそり出てきたそうだ。あれは見ていて本当に面白かった。
※ 6フィートは約1.8メートル。フェニックスは米国アリゾナ州の州都。
6. 名無しのReddit住民(>>5への返信)
そっちの穴の深さは誰も聞いてないんだよ。
…と思いながら最後まで読んで、粘土と地下水の話に普通に感心してしまった。悔しい。
7. 名無しのReddit住民
ジョン・タイター。2036年から送り込まれてきたと名乗ってた、自称タイムトラベラーだよ。目的は、IBM 5100というコンピュータを手に入れること。2000年から2001年ごろ、どこかの掲示板にふらっと現れた。
未来人のわりに、欲しがる物が妙に地味で具体的。そこが引っかかって調べ始めると、もう戻ってこられない。
※ ジョン・タイター:2000年から2001年にかけて、英語圏のネット掲示板に「2036年から来た」と書き込んだ人物。正体ははっきりしていない。IBM 5100は、IBMが1975年に発売した持ち運び型のコンピュータ。日本では、ゲームとそのアニメ版『STEINS;GATE』(シュタインズ・ゲート)の元ネタとして知られている。
8. 名無しのReddit住民
感染して悪くなった牛のひづめを削る動画。それを投稿してる人たちのコミュニティが、ネットにはあるんだよ。
見てる側の顔ぶれがまた独特で、ニキビを潰す動画が好きな人たちの一派と、田舎の農家の人たちが、そこで合流してる。
9. 名無しのReddit住民
フランスのゲーム情報サイト(jeuxvideo.com)での話。あるゲームがWii Uに移植されない、というだけの何でもない記事のコメント欄で、2人が「どのゲーム機が最高か」の言い争いを始めた。
その論争が3年続いたんだ。2人合わせてコメントは1万5000件以上(しかも、1件1件が短くない)。誰も見ていない場所で、来る日も来る日もやり合ってた。クリスマスイブだろうと年越しだろうと、まったく同じ話題で、1日に何度も返信し合ってたんだよ。
おかしいのは、言い争いの合間に、ふいに自分の生活の話が挟まること。うちの妻のほうが上だと自慢してみたり、「お前はそういう性格なんだ」と言い張るための材料にしたり。途中からは、たぶん友達よりもお互いのことをよく知ってたと思う。直前のクリスマスイブに罵り合ったばかりなのに、新年のあいさつまで交わしてたくらいだから。
終わったのは、たまたまそれを見つけた誰かが、サイトの総合掲示板で紹介したとき。
同じような例はほかにもあって、そっちは別の記事のコメント欄で、2人がセガの凋落について7か月やり合ってた。書き込みを掘り返した人によると、片方は、返信に夢中になりすぎて私生活が犠牲になったとこぼしてたらしい。
こんなふうに何年も続いてる言い争いが、今もどれだけあるんだろうね。誰かがたまたま見つけるまで、誰にも知られないままで。
※ jeuxvideo.com:フランスのゲーム情報サイト。「jeux vidéo」はフランス語で「ビデオゲーム」の意味。
10. 名無しのReddit住民(>>9への返信)
罵り合った直後に新年のあいさつを交わしてるなら、それはもう友達なんだよ。
3年で1万5000件って、ならすと毎日十数件のペースだろ。恋人同士でも、そこまでまめに連絡は取り合わない。
11. 名無しのReddit住民
自分の場合は「弱い核力」だった。
自然界にある4つの力のひとつ、くらいの軽い気持ちで調べ始めたのが間違い。説明に出てくる用語が分からなくて調べると、その説明にまた知らない用語が出てくる。一晩たっても、最初のページに戻れてなかった。
※ 弱い核力:重力、電磁気力、強い力と並ぶ、自然界の4つの基本的な力のひとつ。「弱い力」「弱い相互作用」とも呼ばれ、原子核が別の種類に変わるベータ崩壊などを引き起こす。
12. 名無しのReddit住民
ロレックスにのめり込んでる連中の世界だな。
ロレックスをはじめ、ばかみたいに高い腕時計をあがめる熱量は、ほとんど信仰の域だよ。どうかしてる。
自分は1本も持ってないのに、あの人たちのやり取りを読んでるだけで何時間もたってた。
13. 名無しのReddit住民
トインビー・タイル。
車が走る道路の路面に、謎の文言が書かれたタイルが埋め込まれてる。それも、1つの街だけの話じゃない。誰が、何のために、どうやって。Wikipediaの記事を1本読んだだけで、その日の予定は全部なくなった。
※ トインビー・タイル:1980年代から、米国や南米の都市の路面で見つかっている謎のタイル。「トインビーの考え」「映画“2001年”」「木星で死者を復活させる」といった趣旨の英文が書かれている。誰が作ったのかは、はっきりしていない。
14. 名無しのReddit住民
名前は思い出せないんだけど、航空事故のコックピットの音声記録を集めて公開してるサイトがあった。
当時は怖いもの見たさが勝ってたから、あれは間違いなく、自分が降りていったウサギの穴のひとつだったな。
15. 名無しのReddit住民
TV Tropes。
1ページだけのつもりで開いたのに、本文のリンクを踏むたびに読みかけのページが増えていく。気がつくと、見たこともない作品の「お約束」にやたら詳しくなってる。
※ TV Tropes:映画、ドラマ、アニメ、ゲームなどに繰り返し出てくる「お約束」の展開や設定を分類して、作品例つきで解説している英語のウィキ。項目どうしがリンクでつながっていて、読み始めると止まらなくなることで知られる。
16. 名無しのReddit住民(>>15への返信)
あのサイトなら週末をまるごとつぶせるよ(というか、実際に何度もつぶした)。17. 名無しのReddit住民(>>15への返信)
人生のいい時期の何年かを、あのサイトに持っていかれた。
18. 名無しのReddit住民
ごく個人的なウサギの穴なんだけど。
レッドブルがFacebookに上げる短い動画のすべてに、「Redbull Gives You Wiings」とコメントしてる男がいる。それが目に入るたびに気が散って、動画の中身が頭に入ってこない。
人力飛行機の大会にも、手作りカートのレースにも、自転車にも、自分が見たかぎりレッドブルのスポーツ動画には全部いる。
※ 「Red Bull Gives You Wiiings」は同社の宣伝文句で、日本では「レッドブル、翼をさずける」。人力飛行機の大会(Flugtag)は手作りの機体で飛距離などを競う催し、手作りカートのレース(Soapbox)はエンジンのない車で坂を下る催しで、どちらもレッドブルが開いている。
19. 名無しのReddit住民
Lake City Quiet Pillsは、なかなか強烈だったよ。殺し屋とか政府関係とか、そういう筋の連絡用の掲示板だったのかもしれない、と言われてるやつ。
本当のところは分からないまま、というのがまた後を引く。
※ Lake City Quiet Pills:ネット上の書き込みをきっかけに、「殺し屋か政府関係者の連絡用の掲示板ではないか」と噂になった謎。あくまで噂で、真相は確認されていない。
20. 名無しのReddit住民
Orion’s Arm。
みんなでSFの世界を作り込んでいくコミュニティ企画で、もう15年以上続いてる。これがとんでもなく出来がいい。科学的な裏づけを重んじるかなり硬派なSFなのに、ちゃんとめちゃくちゃかっこいいんだ。
半年から1年おきに更新をのぞきに戻ってるんだけど、行くたびに広がってる。
※ Orion’s Arm(オリオンズ・アーム):遠い未来の銀河を舞台に、有志が設定や歴史、物語を書き足していく共同創作のSF企画。名前は、太陽系がある天の川銀河の「オリオン腕」から。
21. 名無しのReddit住民
深さで言うなら『ロード・オブ・ザ・リング』の設定だよ。僅差の2位が『ウォーハンマー40,000』の設定。
どっちも、本編で一言触れられただけの名前に、ちゃんと長い歴史が用意されてる。1つ調べると気になる項目が3つ増えるから、終わりが見えない。
※ 『ロード・オブ・ザ・リング』:J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』と、その映画版。作者が神話や言語、歴史まで作り込んだことで知られる。『ウォーハンマー40,000』:英国生まれの、ミニチュアの兵隊を並べて戦わせる卓上ゲーム。遠い未来の宇宙を舞台にした膨大な背景設定があり、小説も数多く出ている。
22. 名無しのReddit住民
自分が落ちたのは、米空母ニミッツの「チックタック型UFO」だな。
映像そのものもとんでもないんだけど、本当にすごいのは背景のほう。過去の似た事例に残ってる、やたらと細かい目撃記録。パイロット本人が証言した議会の公聴会。戦闘機のカメラの仕組み。極めつけは、2004年に撮られた元の軍の映像を、世間に知られるよりずっと前にネットのUFO掲示板へ上げてた人がいて、そのときは誰にも信じてもらえなかったって話だ(ネットのアーカイブで確認できる)。
それでも、まだ全体の半分も知らないんだろうなと思ってる。
※ 2004年、米海軍の空母ニミッツの部隊が訓練中に、白い楕円形の正体不明の物体に遭遇したとされる出来事。小粒のミント菓子「Tic Tac」に形が似ていたことからこう呼ばれる。このときの映像は、のちに米国防総省が公式に公開した。
23. 名無しのReddit住民
クリス・シーリっていうマンドリン奏者がいてね。神童にして名手、マッカーサー賞の受賞者でもある。
何がすごいって、まだ子どもだった頃から今までずっと、とんでもなくいい音楽を出し続けてること。古い順に聴き始めると、いつまでたっても現在にたどり着かない。
※ クリス・シーリ:米国のマンドリン奏者。マッカーサー賞は、米国のマッカーサー財団が分野を問わず独創的な人物に贈る助成金(フェローシップ)で、「天才賞」の通称で知られる。
24. 名無しのReddit住民
「デスバレーのドイツ人」の捜索記録。
デスバレーで行方不明になったドイツ人観光客の一家を、あるものすごく熱心な男性が何年も探し続けて、その試みを全部ブログに書き残してる。最終的に彼は一家の行方を突き止めて、何が起きたと考えられるのかまで割り出したんだ。
人が大自然の中で、今回で言えば砂漠で行方不明になると、見つけ出すのがどれほど不可能に近いか。読んでみて、それがよく分かった。
※ デスバレー:米国カリフォルニア州とネバダ州にまたがる国立公園。北米でもっとも暑く、乾燥した砂漠地帯として知られる。
25. 名無しのReddit住民(>>24への返信)
あれは地図があるのがいいんだよ。新しい手がかりが出るたびに、それが地形の上でたどれる1本のルートになる。
小さな道の間違いひとつが、どれだけあっさり雪だるま式に膨らんでいくのか、見ていて分かる。26. 名無しのReddit住民(>>24への返信)
あの人のブログは隅から隅まで全部読んだ。もっと続きがあればいいのに、と本気で思ってる!
27. 名無しのReddit住民
ジョン・マカフィー。
あの人は中米ベリーズのジャングルに移り住んで、ドラッグ関連の掲示板に、自己流の「研究」のことを書き込み始めた。自分は、そのハンドルネームと本人が結びつけられる前から読んでたんだ。書き込み主の正体を知ってから読み返したら、とんでもなかったよ。
そのあと、本人がいよいよ手のつけられない暴走を始めた。たとえるなら、ウサギの穴がぐるっと回って地表に戻ってきて、ウサギが野原という野原を狂ったように走り回りだした感じ。
亡くなった今は、また元のウサギの穴に戻ってる。何も知らない若いRedditユーザーが、いつ落ちてもおかしくないやつだ。
※ ジョン・マカフィー:ウイルス対策ソフト「マカフィー」の生みの親。会社を離れたあと中米ベリーズに移り住み、型破りな言動でたびたびニュースになった。2021年に死去。
28. 名無しのReddit住民
このあいだ拾ったタロットカードに、サイトのアドレスが書いてあってね。開いてみたら、ウサギの穴みたいな隠しページがあった。量子物理学とか、サルパっていう海の生き物とか、変な話がごちゃまぜに載ってて、ゲームまで置いてある。サイトの名前は「quantum encounters」。
いちばん面白かったのは、開くたびにページの見た目が前とまるで違ってたこと。ゲームまでそうなんだよ。
誰が何のために作ったのか、さっぱり分からない。ものすごく変なんだけど、中身にはけっこう面白いものも混じってて、そこが余計に気になった。
※ サルパ:海中を漂う、透明なゼリー状の生き物。見た目はクラゲに似ているが、ホヤに近い仲間。
29. 名無しのReddit住民
Wikipediaの「珍しい記事」の一覧。
百科事典にこんな項目があるのか、という記事ばかりを集めたページなんだけど、1つ読むと、本文のリンクから次の記事へ、また次の記事へと流されていく。もともと何を調べてたのかは、だいたい3つ目あたりで忘れる。
※ 英語版Wikipediaには、百科事典としては風変わりな題材の記事を集めた「Unusual articles(珍しい記事)」という一覧ページがある。
30. 名無しのReddit住民
このスレ、仕事中にヒマを持て余してる自分にぴったりだよ。ありがとう。
とりあえず上から順に開いていく。今日の午後は、これで乗り切れそうだ。
まとめ
挙がった“ウサギの穴”を並べてみると、深さにもいくつか種類があることに気づきます。ひとつは、TV TropesやWikipedia、作り込まれた架空世界の設定のように、リンクと項目が果てしなく続いていくもの。もうひとつは、ジョン・タイターや路面のタイルのように、答えが出ないまま残っている謎です。そして読んでいていちばん引き込まれるのは、コメント欄で3年間やり合った2人や、1週間の日数で引かなかったボディビルダーのように、当人たちが大まじめに掘り続けた穴でした。誰にも見られていない場所で積み上がった熱量ほど、あとから見つけた人を引きずり込むのかもしれません。Wikipediaのリンクをたどっているうちに、最初に何を調べていたのか忘れてしまった経験なら、日本の読者にも覚えがあるはず。皆さんがこれまでに落ちた、いちばん深い“ウサギの穴”は何でしたか?


コメント